#01, 吹物(ふきもの)
ここで紹介する三管はそれぞれ、『笙』は「天」を、『篳篥』は「地(人)」を、そして『龍笛』は「空」を表すと古来より考えられており、この三管で合奏することによって一つの宇宙を表していたと伝えられています。
その形が翼を立てた鳳凰に模した姿をしていることや、
その音色が“天から差し込む光”を表していると考えられたことから
鳳笙(ほうしょう)という美称で呼ぶこともあります。
古くは笙笛(しょうのふえ)と称し、音色,姿ともにとても美しい楽器です。
主に和音を奏でる楽器で、吹き口のある頭(かしら、檜や桜で作った椀型に水牛の角で作った蓋をしたもの)と呼ばれる部分に17本の竹管をたて、銀でできた帯で束ねたつくりになっています。
竹管のうち、15本には響銅(さはり)という合金で作った簧(した)がついており、竹管の下にある少孔を押さえることによって、吹いても吸っても同じ音が出ます。そもそもは17本の全てに簧がついていたのですが、使用する都合で徐々に退化したものだと考えられています。
左の写真は、「なんじゃ、こりゃ?」なんて思う方が多いと思いますが、「越天楽」という曲の笙の譜面です。
『一』や『十』、『下』の表記がそれぞれ、11種類ある穴の押さえ方を表したものとなっています。
その音は、地にこだまする人の声を表すと古来より伝えられます。
多くの曲目において、篳篥はその主旋律を受け持ちます。
「篳篥」と書いて「ひちりき」と読みます。管は竹製で、表面に7つ,裏面に2つある各孔の間と管の両端には樺(かば、桜の皮を細く裂いて紐状にしたもの)巻きが施されています。蘆(よし、植物アシのこと)で作った舌(した、ダブルリードの様な構造をしている)を挿し込んで、ある程度…例えるなら、風船を膨らますくらいに、ある程度強く息を吹き入れることで初めて音が出る楽器です。
発音できる音域は狭く、そのため装飾的な奏法がとりわけ発達しています。その代表的なものが「塩梅(えんばい)」と呼ばれる奏法で、加減によって同じ指使いでも3律前後の幅で音の高さを変えることができます。
余談ですが、この奏法の意味から派生した言葉が、私たちが今日しばしば使う「塩梅(あんばい)」だと言われています。
「これはまたわけのわからん…」なんて声が聞こえてきそうな左の譜面ですが、これも笙のそれと同じく篳篥の「越天楽」の譜面です。
チやラやロなど、カタカナで表記されているものが西洋音楽で表現するところのドレミファソラシにあたります。ただし、「“チ”は、この音!」というものではなく、同じ文字でもいくつもの音階の表現に使われています。逆に、同じ音であっても『ラ』だったり『タ』だったりと、場合によって様々な表記になっています。その左側に記してある『六』や『四』、『エ』というのが笛の孔の押さえ方を表記したものとなっています。
元来、雅楽の伝承は楽譜というものを使わずすべて口伝によるものでした。近年(明治以降)になって私たちはこの楽譜を見ることができるようになりましたが、それでも師匠からの口伝による指南がなければ曲をしっかり理解することは不可能なのです。
その名の通り、空を舞い立ち昇る龍の鳴き声を表します。
雅楽の横笛には3種類あります。写真左から、龍笛(りゅうてき)、神楽(かぐら)笛、高麗(こま)笛です。ここで紹介する龍笛は、主に唐楽を奏でるときに用います。
やはり管自体は竹製で、両端に樺巻きを施し、首に赤地錦を張ってあります。指で押さえる孔は全部で7孔です。
音域全体を2分して、低音域を「和(ふくら)」,高音域を「責め(せめ)」と呼び、高低の音の出し方は唇と息で行います。
篳篥に比べ、横笛ははるかに広い音域を持ちます。そのため、時に装飾的な奏法を持って管弦や舞楽の際には旋律に彩りを添えるように音を舞わせ、時に篳篥や歌とともに主旋律を受け持つことで曲に深みをもたせたりと、その表現の幅と同様に受け持つ役割の幅も非常に広い楽器です。
いかがですか?さすがに3つ目となると慣れましたか?と、いうわけで同じく龍笛の「越天楽」の譜面です。だいたい篳篥と似ていますね。
どの譜面も、曲名の下に記してある呪文の様な漢字の羅列がこの曲のテンポを示しています。雅楽は西洋音楽の様に拍と拍の間の長さが均一ではないうえに、曲を通して一定のテンポの中で演奏するのではなく徐々に早くなっていく曲が多いのです。そういった拍感や速度のニュアンスを楽人全体ではかりながら演奏していくのです。